「金融正常化」「金利のある世界」の掛け声のもと、住宅ローン金利の上昇が続いています。その一方で、金利上昇によって魅力が増している金融商品もあります。その一つが「個人向け国債」です。利率が上昇して販売額も大きく伸び、さらに国は販売対象の拡大や税制優遇まで検討しています。いま個人向け国債に何が起きているのか、2026年8月時点の最新動向を整理します。
1.ポイント
最初に、個人向け国債を取り巻く最近の動きをまとめると、次のようになります。
・金利上昇により、個人向け国債の利率も大幅に上昇
・2025年度の発行総額は6兆1,526億円と、2006年度以来の高水準
・2026年12月募集分から「個人向け国債プラス」に名称変更し、一部の法人等にも販売
・国はNISAの対象化や相続税軽減などの税制優遇も検討
・背景の一つには、日銀の国債買い入れ縮小などを受け、国債を保有する投資家層を広げたいという国側の事情も
住宅ローンを利用する側から見ると「金利上昇」は負担増ですが、お金を預けたり運用したりする側から見れば、必ずしも悪いことばかりではありません。
2.個人向け国債の動向
■ 個人向け国債の金利が2%台に
個人向け国債には、「変動10年」「固定5年」「固定3年」の3種類があります。2026年8月募集分の税引前の利率は、次の通りです。
| 種類 | 2026年8月募集分の利率 |
| 変動10年 | 年1.87% |
| 固定5年 | 年2.06% |
| 固定3年 | 年1.71% |
固定5年では、ついに年2%を超えました。
個人向け国債は1万円から購入でき、最低金利として年0.05%が保証されています。「変動10年」は半年ごとに適用利率が見直され、「固定5年」「固定3年」は購入時の利率が満期まで変わりません。
また、発行から1年経過後は原則として中途換金でき、額面金額で国が買い取るため、一般的な債券のように市場価格の下落によって元本割れすることはありません。ただし、中途換金時には直前2回分の利子相当額が差し引かれます。
■ 長く続いた「ほとんど金利がつかない」時代
いまでは2%を超える商品も出ていますが、少し前まで個人向け国債は「安全だけれど、ほとんど金利がつかない」という印象の強い金融商品でした。例えば2019年8月発行の固定5年は、最低保証金利である年0.05%。100万円を1年間預けても、税引前の利子はわずか500円という水準です。
背景には、日本銀行が長年続けてきた大規模な金融緩和があります。特に2016年から導入された長短金利操作、いわゆるYCC(イールドカーブコントロール)では、長期金利(日本の10年モノ国債の利回り)を低い水準に抑える政策が行われました。
個人向け国債の利率も市場の国債利回りをもとに決まるため、こうした超低金利政策は個人向け国債の低金利にもつながっていました。
その後、日銀は長期金利の変動幅や上限の目途を、
・2021年3月:±0.25%程度
・2022年12月:±0.5%程度
・2023年7月:±0.5%程度を「目途」とし、1.0%まで柔軟化
・2023年10月:1.0%を「上限の目途」に変更
と段階的に柔軟化しました。
そして2024年3月には、マイナス金利政策の解除とともにYCCの枠組みを終了。長期金利に操作目標を設けない金融政策へ移行しました。これまで当コラムでは、こうした日銀の政策変更を「住宅ローンの固定金利が上がる要因」として取り上げてきました。
ところが、同じ金利上昇を反対側から見ると、個人向け国債などを保有する側にとっては、受け取れる利息が増えるというプラスの面があります。
■ 金利上昇で個人向け国債の販売も急増
実際、利率の上昇に伴って個人向け国債を購入する人も増えています。財務省によると、2025年度の個人向け国債の発行総額は6兆1,526億円。前年度から約1.7兆円、率にして36.9%増え、2006年度以来の大きさとなりました。
商品別では、変動10年が2兆938億円、固定5年が3兆196億円、固定3年が1兆392億円。特に固定5年は、前年度の約1.3兆円から3兆円超へと倍以上に増えています。
個人向け国債といえば、これまでは金利上昇に対応できる「変動10年」が代表的な商品でした。しかし、固定5年の利率そのものが上昇したことで、一定の金利を5年間確保できる固定5年への関心が高まっていると考えられます。
財務省の国債トップリテーラー会議でも、固定5年の販売が好調であるほか、従来のシニア層だけでなく、30~40歳代など現役世代にも関心が広がり始めているとの報告が出ています。
さらに直近の2026年7月募集分では、
・変動10年:3,413億円
・固定5年:5,460億円
・固定3年:1,304億円
と、わずか1か月で合計1兆円を超える応募がありました。「国債なんて金利が低いから興味がない」という時代から、状況はかなり変わってきています。
3.なぜ国は個人向け国債をもっと買ってほしいのか?
ただし、国が個人向け国債の販売を強化している理由は、「国民の資産形成を応援したいから」だけではありません。もう一つ重要なのが、日本国債を誰に持ってもらうのかという問題です。
大規模な金融緩和のもとでは、日銀が大量の国債を買い入れてきました。しかし、金融政策の正常化に伴って国債買い入れは縮小方向にあります。今後も国が大量の国債を発行していく以上、それを銀行、生命保険会社、海外投資家、そして個人など、幅広い投資家に安定的に保有してもらう必要があります。
政府も「骨太の方針2026」で、個人向け国債の魅力向上を通じて国内の投資家層を広げる方針を掲げています。2026年8月25日の記者会見でも、片山さつき財務大臣は、国債を安定的に発行・償還していくために個人向け国債の魅力を高め、幅広い投資家に保有してもらう必要があるとの考えを示しています。
つまり個人向け国債をめぐる最近の動きには、「個人にとって魅力のある金融商品を提供する」という面と、「国にとって安定した国債の買い手を増やす」という、二つの側面があるわけです。
4.12月から「個人向け国債プラス」に
その一環として、2026年12月募集分、2027年1月発行分から、現在の「個人向け国債」は「個人向け国債プラス」に名称が変わる予定です。
「プラス」と聞くと、金利が高くなったり新しい商品が追加されたりするように感じるかもしれませんが、そうではありません。変動10年・固定5年・固定3年というラインナップや基本的な商品性は変わらず、これまで個人だけだった販売対象を、一部の法人や団体にも広げるものです。
例えばマンション管理組合などからも関心が寄せられているとのことで、安全性を重視しながら一定期間資金を運用したい法人・団体の需要を取り込む狙いがあります。財務省自身も「国債の安定保有層の拡大」を販売対象拡大の目的として説明しています。
5.今度はNISA? 個人向け国債に税制優遇も検討
さらに2026年8月、もう一つ新しい動きが出てきました。政府が2027年度税制改正に向け、個人向け国債について税制面で優遇することを検討しています。報道では、
・NISA(少額投資非課税制度)の対象にする
・相続税を軽減する
といった案が取り沙汰されています。
片山財務大臣も8月25日の記者会見で、財務省と金融庁から国債保有に関する税制措置を税制改正要望として提出する可能性に言及しました。
ただし、2026年8月27日時点で税制優遇の導入が決まったわけではありません。現在の個人向け国債の利子には原則20.315%の税金がかかりますので、仮にNISAの対象となり、利子が非課税となれば手取りの利回りは高くなります。
その一方で、NISAはこれまで株式や投資信託などを利用した長期的な資産形成を促し、「貯蓄から投資へ」という政策を後押しする役割を担ってきました。そこへ元本割れのない個人向け国債を加えることについては、
「これまでのNISAの目的と整合するのか」
「多額の国債を保有できる高所得者への優遇にならないか」
「税収減をどう考えるのか」
といった論点もあります。
片山財務大臣もこれらの点に触れ、今後関係者と議論していくとしています。したがって、現時点では「個人向け国債がNISAになる」と決めつけず、年末の2027年度税制改正大綱に向けた議論を見ていく必要があります。
6.では、個人向け国債は「買い」なのか?
ここまで金利が上がると、「普通預金に置いておくくらいなら、個人向け国債を買った方がよいのでは?」と思う方もいるでしょう。確かに、安全性を重視する資金の置き場所としては、以前より検討する価値が高くなっています。ただし、金利が高くなったからといって、誰にでも個人向け国債が向いているわけではありません。
大切なのは、そのお金をいつ使うのか、また、どこまで安全性や収益性を求めるのかを考えることです。例えば、数年以内にマイホームを購入する予定があり、頭金や諸費用として500万円を準備しているケースを考えてみましょう。住宅購入時期が近いのであれば、株式や投資信託で運用して価格が下落してしまうリスクは避けたいところです。一方で、すべてを金利の低い普通預金に置いておく必要があるとも限りません。
そこで、
「すぐ使う可能性のある生活予備資金」 → 普通預金など
「数年間は使わない住宅購入資金」 → 定期預金や個人向け国債など
「10年以上使う予定のない資金」 → NISAを活用した株式・投資信託などの長期運用
というように、使用時期によってお金の置き場所を分ける方法があります。
もちろん個人向け国債は原則として発行後1年間は中途換金できないため、1年以内に使う可能性がある資金には向きません。「どの商品が一番得か」ではなく、いつ使うお金なのかによって金融商品を使い分けることが重要です。
7.まとめ 金利上昇で「借りるお金」と「持っているお金」の両方が変わる
このところ住宅ローンでは、変動金利タイプ、固定金利タイプとも金利上昇のニュースが続いています。住宅ローンを借りる側から見れば、金利上昇は返済負担を増やすため、歓迎できる話ではありません。
しかし、「金利のある世界」への変化は家計にとって悪いことばかりでもありません。普通預金や定期預金の金利が上がり、個人向け国債でも2%を超える商品が登場しています。さらに「個人向け国債プラス」への拡充や税制優遇まで検討されるなど、国債を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。
これからは住宅ローンについて「どこから、どう借りるか」を考えるだけではなく、手元にある資金を「いつ使うのか」「それまでどこに置いておくのか」まで含めて考えることが、家計管理の重要なポイントになるでしょう。
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名古屋駅前の住宅専門ファイナンシャルプランナー
家計とマイホーム相談室 草野芳史
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