前回のコラムでは、最近の金利上昇の中で安心を求める人向けに「フラット35」についてご紹介しました。いまのフラット35は「安心」だけでなく「割安な金利」も享受できるボーナス期になると書きました。ただ、「慌ててフラット35に借り換えることはお勧めしない」とも書いています。それは、変動金利タイプの住宅ローンには、金利上昇時に家計への影響を和らげるための2つのルールがあるからです。
ただ、意外とこれらのルールを誤解していたり、不正確に理解している人が少なくないので、あらためて今回のコラムで解説したいと思います。
変動金利には「2つの安全装置」がある
住宅ローンの「変動金利タイプ」の変動とは、半年に1回=年に2回金利が見直しされるということ。固定金利期間選択タイプになぞらえると、イメージとしては「半年固定金利タイプ」「0.5年固定金利タイプ」と言えるでしょう。
これは賃貸住宅でいうと「半年ごとに家賃が見直しされる状態」となり、金利が上がる=返済額が上がると家計への影響も少なくありません。そこで、変動金利タイプには、金利上昇に対して家計への影響を抑えるために
① 5年ルール
② 125%ルール
という2つの安全装置があるのです。
① 5年ルールとは
変動金利の住宅ローンには、一般的に「5年ルール」が設けられています。
これは、金利が上がっても、
・毎月の返済額は
・借入から5年ごとにしか見直しされない
という仕組みです。
つまり、金利が上がっても、すぐに返済額が上がるわけではありません。
このため、「当面は家計に大きな影響は出にくい」というのは事実です。
■ありがちな誤解「5年間は返済額が上がらない=安心」ではない
ここで、非常に多い誤解があります。
「5年間は返済額が上がらないと聞いたので、金利も上がらないと思っていました」
しかし、返済額が上がらない=金利が上がらないではありません。5年ルールで据え置かれるのは、あくまで返済額です。金利そのものは、半年ごとに見直されています。
金利が上がると、
・表面上の毎月の返済額は変わらない
・毎月の返済額の内訳で、利息の割合を増やし、元金の割合を減らす
という調整が行われます。
つまり、「何も変わっていないように見える期間」に、水面下では返済ペースが落ちているのです。5年ルールは、金利上昇の影響を「免除してくれる」制度ではなく、あくまで「影響が表に出るまでの猶予期間」と考えると分かりやすいでしょう。
■金利の見直しはいつ行われるのか
多くの金融機関では、変動金利の見直しは、
・毎年4月と10月
に行われます。
このタイミングで、
・適用金利
・利息と元金の内訳
・今後の返済予定
が再計算され、返済予定表が銀行から送られてきます。
金利上昇局面では、この返済予定表を
・金利は何%になったか
・利息の割合がどう変わったか
・元金はきちんと減っているか
という視点で、忘れずに確認して下さい。
② 125%ルールとは
もう一つの安全装置が、125%ルールです。これは、5年ごとの返済額見直しの際に、新しい返済額は、直前の返済額の 1.25倍まで に抑えられるという仕組みです。
たとえば、毎月8万円で返済していた場合でも、次回の見直しで一気に11万円になることはありません。
👉急激な返済額上昇を防ぐための、家計保護の仕組みです。
ただし注意:「影響が遅れて出る」
5年ルールと125%ルールがあるため、
・金利上昇の影響は
・すぐには表に出ません
しかしその分、影響が後から出るという特徴があります。
一般的な銀行の場合、
・2026年4月に返済額が見直される人は
👉 2020年4月~2021年3月頃に借りた人
に該当します。
この方たちは、これまで金利上昇の影響を実感しにくかった分、次回の見直しで返済額が上がって驚く可能性があります。どれくらい返済額が上がるか、一例として試算してみます。2020年は0.4%程度の変動金利もありました。5年経過して金利が1.0%に上がったとします。5000万円を35年返済で借り入れしたなら、
・返済当初の返済額 127,595円/月
・見直し後の返済額 139,201円/月
と1万円以上増えるケースも考えられます! これは家計に大きな負担になり得ます。
変動金利が上がり始めて以降、この返済額の見直し時期がやってくる人がこれから増えてきますが、金利や返済額のアップに皆さんビックリすることと思います。ビックリするだけならまだしも、ずっと変動金利が上がらないという前提で住宅ローンを組んだ人などは、返済負担のアップで家計が厳しくなってしまい、それが社会問題化するかもしれません。
知っておきたい「未払い利息」というリスク
もう一つ、知っておいていただきたいのが未払い利息の存在です。
金利が上がり続けると、
・毎月の返済額(5年ルールで固定)
・その中に含まれる利息
の関係が逆転し、返済しているのに利息を払い切れないという状態になることがあります。これが「未払い利息」です。
未払い利息が発生すると、
・その分は元本に組み込まれ
・返済期間終了時に一括精算
となります。
経済学的に見れば、金利が永遠に右肩上がりで上がり続ける可能性は高くありません。ただし、リスクとして知っておくことは重要です。
なお、多くの金融機関では上記の「5年ルール」と「125%ルール」が採用されていますが、一部のネットバンクなどではこれらのルールを採用していないケースもあります。そういった金融機関で変動金利の住宅ローンを借りていると、金利の上昇がダイレクトに返済額に影響しますのでご注意ください。
また、毎月の返済額の元金と利息の割合を調整するという仕組み上、この「5年ルール」「125%ルール」が適用されるのは「元利均等返済」のみです。毎月返済する元金が一定で、返済が進むにつれて利息分が減っていく「元金均等返済」には、これらのルールは適用されません。そのため、ご自身の返済中の住宅ローンが、「元利均等返済」なのか「元金均等返済」なのかも、あらためて確認しておくことが大切です(返済方法は、返済予定表や金融機関のマイページで確認できます)。
だからこそ必要なのは「家計のチェック」
5年ルールや125%ルールは、金利上昇時に家計を守るための「クッション」ではありますが、将来の負担そのものを消してくれる仕組みではありません。つまり「何も考えなくていい」という意味ではありません。
・125%まで返済額が上がっても耐えられるか
・その状態が数年続いても問題ないか
これを確認するには、ライフプラン(キャッシュフロー表)による家計の点検が欠かせません。
まとめ:慌てず、冷静に選択肢を考える
金利上昇のニュースを見ると、不安になりがちです。しかし、
・すぐに家計が壊れるわけではない
・ただし、数年後に影響が出る可能性はある
というのが、現実的な捉え方です。
慌てて借り換える前に、
1.今の住宅ローンの条件を確認する
2.金利・返済額の見直し時期を把握する
3.家計全体で耐えられるかを点検する
この順番で考えることが、後悔しない対策につながります。
借換えについては、こちらの記事も参考にしてください。
「やってはいけない借換え3選 金利が上がる今、住宅ローンの正解は?」
家計とマイホーム相談室では、
・ライフプラン(キャッシュフロー表)の作成
・現在の住宅ローンの診断
・今後の返済の考え方の整理
といったご相談を承っています。不安に振り回される前に、まずは現状を「見える化」するところから始めてみてください。
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