2026年9月4日、日本経済新聞の朝刊一面に、大和ハウスが新築戸建ての受注を絞り込み、注文住宅を5000万円以上に限定、23道県から撤退するとの記事が掲載されました。わたくし草野も、朝、目にしたときビックリ! かなり衝撃的な見出しですが、実際にはどうなのでしょうか。今回のコラムでは、大和ハウスの発表や各種報道をもとに、住宅業界で起きている変化を考えてみます。
1.ポイント
まず今回のニュースについて、草野なりに整理すると次のようになります。一部、私見も含みます。
・「5000万円以上」は自由設計の注文住宅が対象で、大和ハウスの戸建住宅すべてが5000万円以上になるわけではない
・大和ハウス自身は「23道県から撤退」ではなく、「展開エリアの最適化」と表現している
・規格住宅・セミオーダー住宅へのシフトや、高付加価値化は以前から進んでいた
・大和ハウス自体の経営が危ないという話ではなく、アフターサービスなども全国で継続する
・地方への展開縮小には、人口減少だけでなく「大手ハウスメーカーのビジネスモデルと地方住宅市場との相性」もある
・今回の動きは、大手ハウスメーカーでも従来通りのやり方では難しくなってきた住宅業界の変化を象徴している
では、順番に見ていきましょう。
2.日経一面「5000万円以上・23道県撤退」の衝撃
2026年9月4日付の日本経済新聞は、大和ハウス工業が新築戸建住宅の受注を絞り込み、東京・大阪などの都市部に営業機能を集中させると報じました。
特に目を引いたのが、「注文住宅は5000万円以上」「23道県で撤退」という内容です。設計自由度の高い注文住宅について5000万円以上に限定し、資材費や人件費の上昇で圧迫されている収益の改善を図る、と報じられています。しかも掲載されたのが日経新聞の一面トップという、かなり目立つ扱いでした。私が付き合いのある大和ハウスの社員にも話を聞いてみたところ、その社員自身も今回の報道の大きさには驚いていました。
ただ、その社員がしきりに話していたのは、大和ハウスとしては「撤退」ではなく、展開エリアの「最適化」を狙っているということでした。実際、大和ハウスが同日に公表したニュースリリースでも、「撤退」という言葉ではなく、「新築戸建住宅事業における展開エリアの最適化」と表現しています。
もちろん、新築戸建住宅の新規営業を行わなくなる地域がある以上、住宅購入者から見れば「撤退」と受け取られるのも無理はありません。ただ、新聞の見出しだけを見て「大和ハウスが戸建住宅から大幅に手を引く」と考えるのは、少し違うようです。
3.実際に大和ハウスは何を変えるのか
大和ハウスの公式発表によると、2027年4月から、新築戸建住宅についてエリアごとの着工数、価格競争力、将来的な市場規模などを分析し、需要が堅調な都市圏を中心とした14支社・支店、23エリアに営業・設計・施工などの経営資源を重点配置します。
住宅専門紙「Housing Tribune」によると、これまで山形県・沖縄県を除く45都道府県で事業を展開していたところ、北海道から鹿児島県まで23道県で新築戸建住宅の営業を終了します。新築戸建て事業を継続する23都府県のうち、石川県は能登半島地震の復興住宅への対応に限定されるため、通常の新築営業を行う地域は実質22都府県となります。
そして今後の商品戦略は、大きく二つの方向に分かれると思われます。一つは、設計自由度の高い5000万円以上の完全自由設計による注文住宅。もう一つが、設計・施工を合理化した規格住宅・セミオーダー住宅です。
つまり、「大和ハウスでは5000万円ないと家が建てられなくなる」わけではありません。5000万円(土地代は別途)という金額は自由設計の注文住宅に設けられる線引きであり、一次取得者など幅広い価格ニーズには、規格住宅やセミオーダー住宅で対応するという形です。
なお、「5000万円」という具体的な金額は大和ハウスの公式リリースには記載されておらず、日本経済新聞や住宅専門紙などの報道で示された内容です。この点も、事実を整理するうえでは区別しておきたいところです。
4.以前から進んでいた「量より質」と商品の棲み分け
今回の報道だけを見ると、大和ハウスが突然、高級住宅へ大きく舵を切ったようにも見えます。しかし、住宅業界を見てきた私の感覚では、今回の方向性はそれほど突然ではありません。
ここ数年、大手ハウスメーカーの販売戦略には、「量より質」――言い換えれば、販売棟数を追うより1棟あたりの付加価値や単価を上げるという傾向が見られました。住宅価格が上昇する中、大幅な値引きや価格競争で受注を取りにいくより、太陽光発電や蓄電池、床暖房などの設備をキャンペーンで付けるなどして付加価値を高め、販売単価を上げるという方向です。簡単に言えば、「安くして売る」より「価値を付けて高く売る」という考え方です。
また、完全自由設計だけではありません。大和ハウスもここ数年、建築費高騰への対応として、建売住宅や規格住宅、セミオーダー住宅「Smart Made Housing.」に力を入れています。
同社によると、2024年4月から2025年3月までの契約では、規格住宅・セミオーダー住宅が注文住宅の約半数まで成長しました。大和ハウス自身も、資材費や人件費が上昇する中、家づくりを効率化することでコストを抑える商品として位置付けています。
そう考えると今回の施策は、突然それまでの戦略をひっくり返したというより、以前から進めていた「高付加価値の自由設計」と「コストを抑えた規格・セミオーダー」という二極化を、より明確に打ち出したものと見ることができそうです。
5.なぜ今なのか 戸建住宅を取り巻く環境の変化
背景には、日本の戸建住宅市場そのものの変化があります。
大和ハウス自身も今回の発表で、人口減少や建築資材価格の高騰などを背景に、新設住宅着工戸数が長期的に減少していることを挙げています。さらに、東京・大阪・愛知などの都市圏では人口流入などによって住宅市場の存在感が高まる一方、地域によっては住宅需要の縮小が進んでおり、地域差が大きくなっているとしています。
これに加えて住宅業界では、
・建築資材価格の上昇
・職人不足や人件費の上昇
・省エネ基準引き上げなどによる建築コスト増
・建築基準法改正などに伴う設計・申請業務の増加
・住宅価格の上昇
・住宅ローン金利の上昇
などが重なっています。
住宅会社側のコストは上がっていますが、住宅購入者の予算が同じ割合で増えているわけではありません。ここに今の戸建住宅市場の難しさがあります。
6.23道県の「撤退」はなぜ? 地方では地元工務店が強い
それでも私が今回もっとも驚いたのは、5000万円という価格よりも、新築戸建住宅のエリアを大きく絞り込むことでした。
大手ハウスメーカーが地方の住宅展示場から撤退したり、営業拠点を統合したりする動き自体は、これまでもありました。ただ、大和ハウスは鉄骨造と木造の両方を扱い、注文住宅から分譲住宅まで幅広く展開しています。プレハブ住宅メーカーのパイオニアともいえる大和ハウスが、全国展開そのものを見直すというのは、やはり象徴的です。
もっとも、地方の住宅市場には都市部とは違った特徴があります。もともと地方では、地元工務店や地域住宅会社が強い地域が少なくありません。地元の会社には、
・地場産材を活用できる
・地元の職人や協力業者とのつながりが強い
・地域の気候や風土を理解している
・地縁・血縁、知人からの紹介が受注につながる
といった強みがあります。
逆に全国規模の大手ハウスメーカーは、部材の共通化や工業化、営業・設計・施工システムなどを広い地域で展開し、ある程度の販売量を確保することで強みを発揮します。住宅需要が少ない地域では、そのスケールメリットを生かしにくくなります。
さらに住宅そのものに求められるものにも地域差があります。大手ハウスメーカーが得意とする都市型のモダンなデザインや鉄骨住宅、限られた敷地を効率的に使う設計は、敷地に余裕があり木造住宅や平屋への需要が比較的強い地域においては、都市部ほど市場規模が大きくないこともあります。
つまり今回のエリア集約は、単純に「地方は人口が減っているから」というだけでなく、「大手ハウスメーカーのビジネスモデルと地方住宅市場との相性」という面から考えると、より理解しやすいでしょう。大和ハウス自身がエリア選定の判断材料として「着工数」だけでなく「価格競争力」も挙げている点も、興味深いところです。
7.「大和ハウスが危ない」という話ではない
ここで誤解してはいけないのは、「23道県から撤退する」という報道が、大和ハウスという会社そのものの経営不安を意味するわけではないことです。
大和ハウスグループは、戸建住宅だけでなく、賃貸住宅、マンション、商業施設、物流施設など幅広い事業を展開しています。2026年3月期のグループ売上高は5兆5,768億円。その構成は、戸建住宅24%、賃貸住宅26%、マンション5%、商業施設23%、事業施設21%などとなっています。ホームセンターやホテルなど、一般の方が「ハウスメーカー」という言葉から想像する以上に、幅広い事業を展開している会社です。今回も新築戸建住宅のエリアを絞る一方、リフォーム、買取販売、不動産仲介、賃貸管理などの住宅ストック事業は強化します。
そして住宅購入者にとって特に重要なのが、既に大和ハウスで家を建てた人への対応です。大和ハウスは、既存オーナーへのアフターサービスについて、新会社「大和ハウスパートナーズ」が引き続き全国で提供すると明記しています。全国47都道府県で、メンテナンスからリフォーム、住み替えなどに対応する体制を構築する方針です。
ですから、新築住宅の営業エリアを「最適化」するからといって、それまで建てた住宅への対応までなくなるわけではありません。この点は、「撤退」という言葉だけが独り歩きしないよう、押さえておく必要があります。
8.大手でも変わらざるを得ない 住宅業界で進む再編
厳しい状況にあるのは大和ハウスだけではありません。帝国データバンクによると、2026年上半期の建設業の倒産・休廃業・解散は合計5,937件となり、上半期として過去最多となりました。
なかでも、新築戸建てを担うハウスメーカーや工務店などの「木造建築工事」は947件を占めています。帝国データバンクは、資材・土地価格の上昇、住宅ローン金利上昇、建築基準法改正に伴う業務負担などを背景として挙げています。私の知っている地域の工務店でも、ここ数年、廃業する会社が少なくありません。
一方、大手住宅メーカーでも業界再編は以前から進んでいます。例えば、パナソニックホームズ、トヨタホーム、ミサワホームなどは、2020年に設立されたプライム ライフ テクノロジーズのグループ会社となっています。また、家電量販店を母体とするヤマダホールディングスは住宅事業をグループ内に取り込み、ヤマダホームズを中心に住宅・不動産事業の再編を進めてきました。
今後も、エリア集約、商品統合、資本・業務提携、企業買収、ストック事業へのシフトなど、住宅業界の再編は進んでいくでしょう。今回の大和ハウスの動きも、その一つと見るのが自然です。
9.変化の時代だからこそ「大手の安心感」も一つの価値
では、これから家を建てる人はどう考えればよいのでしょうか。私は、住宅会社を選ぶ時には建物の価格、デザイン、性能だけでなく、その会社と長く付き合っていけるかという視点が、これまで以上に重要になると思います。
住宅会社にはそれぞれ長所があります。地元工務店なら、地域事情への詳しさや柔軟な設計、担当者との距離の近さなどがあります。
一方、大手ハウスメーカーには、
・資本力や会社としての継続性
・全国規模のアフターサービス・保証体制
・設計・施工品質の標準化
・拠点再編時にも組織として対応できる体制
などがあります。
もちろん、「大手なら絶対に安心」という意味ではありません。価格が高くなりやすかったり、商品や仕様に一定の制約があったり、担当者との相性によって満足度が変わることもあります。
しかし今回のように、住宅業界自体が大きく変わり、今後も住宅会社の廃業や統合、事業再編が起こり得る時代だからこそ、「大手ハウスメーカーだからこその安心感」も、住宅会社を選ぶ際の一つの価値として改めて評価してよいと思います。
住宅は建てた瞬間で終わりではありません。10年、20年、30年と住みながら、点検、修理、リフォームなどを行っていきます。ですから住宅会社選びでは、「どんな家を建ててくれるか」だけでなく、「建てた後も付き合える会社なのか」まで考えてみてください。
10.まとめ 住宅業界の「当たり前」が変わり始めている
日経新聞の「注文住宅5000万円以上」「23道県撤退」という見出しは、かなりセンセーショナルでした。ただ詳しく見ていくと、大和ハウスが突然戸建住宅事業を縮小したというより、以前から進めてきた高付加価値化、規格・セミオーダー化、そして都市部への経営資源集中をさらに明確にしたものと見ることができます。
一方で、鉄骨・木造を幅広く扱い、日本のプレハブ住宅を牽引してきた大和ハウスが全国一律の展開を見直すという判断は、やはり象徴的です。私は今回の発表を、これまで徐々に進んできた住宅業界の構造変化が、大手ハウスメーカーの経営判断としてはっきり表れた出来事だと見ています。
今後も住宅業界では、人口減少や建築費上昇などを背景に、事業再編や商品・エリア戦略の見直しが続くでしょう。だからこそ住宅購入者も、「大手だから」「地元工務店だから」といったイメージだけで判断するのではなく、商品、価格、地域性、経営基盤、そして将来のアフターサービスまで含め、自分たちに合った住宅会社を選ぶことが大切です。
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名古屋駅前の住宅専門ファイナンシャルプランナー
家計とマイホーム相談室 草野芳史
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